私の狂気の拳を体を張って止めてくれた、そんなやらない夫③
前回のあらすじ
やらない夫は弱かった。しかし、彼は致命的な弱点を抱えていた。
その事実を知らされた私は、ただただ驚くだけだった。
「やらない夫は骨粗しょう症(こつそしょうしょう)だったんですか?!」
私は信じられない思いだった。
骨の太さは変わらないまま、骨密度がスカスカで骨が折れやすい病気であり、要は格闘技に致命的な病気を、やらない夫は持っていたのである。
簡単に言うと、強く突いたり蹴ったりすると、骨にヒビが入ったり、ボキッと折れる可能性が高い。
格闘技においては骨が太い方が理想であり、やらない夫はその反対だった。
自分が骨太か骨細かは、自分自身の手首まわりを測ってみれば分かるだろう。
成人男性の場合、
・骨細 14~16cm
・標準 16~19cm
・骨太 19cm~
となる。
ちなみに私は16cmとごく普通。
しかし、やらない夫は14cmしかなかったのである。180cmの長身で。
キン骨マン並の細さと言えば、分かりやすいだろうか。
話を詳しく聞くと、彼はこれまで稽古や試合で、何回も手や足など、骨にヒビが入ったり、重度の骨折をしたらしい。
大会では予選敗退ばかりで、優勝の経験はない。長年続けたのに関わらず。
彼の家族も何度か空手に通うことを止めさせそうとしたが、やらない夫の強い意志で拒否し、今日も稽古に励んでいる。
私は知らなかった。そんなやらない夫の苦悩を知らなかったんだ。
愚かな私はやらない夫をガチで突いたり、蹴ったりしていたのに、やらない夫はただただ歯を食いしばり、私の猛攻に耐えてたのだ。一切文句を言うことなく。
ここで最低の告白をしよう。
あの時の私は、仕事面で異常なストレスを抱えており、「誰でもいいから殴りたい!」と正に暴力的で野蛮人そのものの心境だった。
弱い人を徹底的に痛めつけたい。いじめたい。蹂躙してやりたい。
そんな負の感情を、ここぞというばかりにやらない夫にぶつけていた。
なのにやらない夫は、決して文句を言うことなく、
突かれても、
蹴られても、
骨の細さからか、すぐにボロボロになっても、
それでも決して心折れず、
私に立ち向かってくる。
これが空手か。気合と根性か。
やらない夫は空手大好き少年。
そんな彼の熱い思いが私にも伝わってくる。ああ、空手が大好きなんだなと。
致命的なハンディにも負けず、勝ち負け関係なく、ただ楽しいから空手をやっている。
そんな印象を改めて受けた。
いつの間にか、私の拳から狂気が取り除かれ、優しさが残る拳となった。
人を殴る・蹴ることの重みを初めて知ったからだ。
これもやらない夫が体を張って証明してくれたおかげだ。
今日もやらない夫は空手道場でいい汗を流している。青春の汗だ。
そして決まって、
この笑顔。
まいった。まいりました。やらない夫は立派な空手バカでした。
空手が強いから空手バカではなく、どれだけ空手を愛し、どれだけ道場で汗を流したか。これが空手バカであるのだと。
やる夫に続き、少年たちに空手として大切なことを、私に教えてくれた。
そんな少年に尊敬を込め、今日も道場で一緒にいい汗を流そう。
後、JKのOさんの汗、クンクンしたい(^q^)
今日も清々しいまでのゴミっぷりを示す私であった。
終わり