私の狂気の拳を体を張って受け止めてくれた、そんなやらない夫①
私はどこにでもいるおじさん。空手を習っている3✕歳。多分マッチョ。
そして最近だが、私は思っている。
M先生の空手道生のほとんどが個性的変わり者なのだと。
M先生や、大魔神や、やる夫や、JKのOさんや、そして「やらない夫」。
今回は同じ道場生の「やらない夫」を紹介したいと思う。
彼に出会ったのは、私が空手を習い始めた直後だった。
※ネットで有名なキャラクター「やらない夫」。やる夫の相棒でもある。
彼は有名私立高校3年生で、少年ながら身長は180cm近くある。
帯は茶色。この色は上級レベルの実力で、黒帯に近いレベルである。
やらない夫の突きや蹴りのフォームが非常に綺麗でスピードも凄まじい。
しばしば私は彼の突き・蹴りに魅入ったものだ。
彼は勤勉家で真面目。学校では模範生らしい。空手を習っていることを決して自慢せず、むしろ謙虚に徹しているらしい。
それでいて性格が明るく、ユーモアもある。
きつい稽古で、しばしば殺伐しがちな道場の空気を和らげてくれる、そんなムードメーカーでもある。
ルックスもフツメンをやや上回っている。可愛がられやすいタイプのルックスだ。
私が入門した当初から、やらない夫の存在感は非常に大きく見えていた。やらない夫と組手(スパーリング)したくないと思った程だ。
特にやらない夫がミットに向かって放つ蹴りは迫力があり、特に上段回し蹴りはすごかった。あれだけ魅せる蹴りを私は他に知らない。
そして当然のごとく、私は嫉妬した。
あの野郎、絶対ヤリチ◯だ!学校中の女生徒の大半を性的に食っている顔だ!
私はこの歳でKIRIN(彼女いない歴ナウ)なのに、私より半分しか生きてないガキが調子にのりやがって!くそっ!おもしろくねぇ!
そんな最低レベルの嫉妬心からか、稽古中にしばしばやらない夫を睨んだ時期もあった。
しかし、やらない夫と目が合うと、
「文句あっか?」と力強い目力で返してきて、即座に目をそらす、そんな3✕歳のおじさん。
やらない夫と自分を比べてみる。
やらない夫は誰からも好かれ、将来を期待されている少年。
片や、稽古をとにかくサボり、JKのOさんのけしからんOPPAIをガン見するおじさん。
なんてこった。自分があまりにもみじめだ。
カスだ。ゴミだ。ウンコだ。使用後のコン◯ームだ。同じ男として悔しい。
そんな負の思いが稽古に通うごとに強まっていき、一時期はやらない夫のいる道場に通うのが嫌になった程だ。
カスでゴミでウンコで使用後のコ◯ドームな自分を慰めるため、毎日安物のお酒(ほ◯酔い)を2~3本飲み、泣きながら泥酔する毎日。一時期、アルコール中毒症までいってない。
そんな腐り切った私がたまに稽古に顔を出すと、決まってやらない夫が声を掛けてくる。
「最近お仕事が忙しいんですか?あまり無理しないで下さいね!」
この屈託のない、純粋な笑顔である。私は濡れた。
私はこの子なら抱かれてもいいと思った。受けだ。ネコだ。
そんな完璧超人にも近いやらない夫だが、当時の私は知らなかった。
実は彼は彼で、深い悩みを抱えていたのだと。
私がその深い悩みを知ったのは、やらない夫と初めて組手をした時だった。
続く。