俺はどうして強くなりたかったんだろう
今日はややブルー気味。まるで何も出来なかった昔の夢を見させられている気分だ。なので、今回は真面目気味に、「俺が強くなりたかった理由」について書きたい。
結論から言おう。「俺を振ったあいつを後悔させてやる」という、非常に幼稚で器の狭い人間がとりがちの、ごくごくありふれた理由だ。決して青空の如く爽やかな理由ではなく、道端に誰が吐いたであろうガムがすっかり固まってしまったような、負。負。ひたすら負の渦から湧き出た衝動からである。
あいつは天然でかわいかった。まるで成長を高校時代で止めたかのような、感受性と純粋さを持っていた。私がからかうとよく「もー!」とムキになる、そんなあいつの動作一つ一つが好きだった。大好きだった。だからいつも一緒にいた。お互いの仕事後、よく食べに行っていた。よく他愛のない話で盛り上がった。いつも私が口数が多く、あいつは頷く役目。そんなあいつの愛想笑顔すらかわいかった。
文字通り毎日がひたすら楽しかった。あいつに毎日会えるのが幸せだった。あいつに会えない時はそわそわしたり、あいつの機嫌が悪かった時は気をもんだりと、いつもいつも私の頭の中はあいつでいっぱいだった。あいつのことしか考えられなかった。恐らく、あいつの方もそうだっただろう。
そんなおとぎ話のような時間は突然終わった。私が縁を切られる形で。私に別れをつげたあいつは泣きながら、「あなたの存在が大きすぎる。もうついていけない。」私は一切理解できなかった。私はあいつの行動一つ一つを気にする粘着質ではない。むしろ、やや放置な方で、お互いに適切な距離をとっていたつもりだ。私が何回も理由を求めるも、あいつはただただ首をふるだけ。結局あいつは泣きながら俺の前から消えた。
分からなかった。どうして俺が。俺が何をしたんだ。俺はあいつに対して誠実だったのに。この時から酒の量が増え、やがては毎日飲まないと精神が不安定で押しつぶされる状態にまで追い詰められた。何回も床にぶちまけた。会社を休職もした。毎日家で酒をすする毎日。自責の念が悪い方へ向かい、やがてあいつを憎悪するようになった。俺がこんなはめになったのは全てあいつのせいだ!と。
会社に復職したが、あいつにある憎悪は濃く広くなるだけ。底なし沼のように。そして私はその憎悪を糧として、あいつに俺を振ったことを後悔させるべく、やがて空手に目をつけた。この格闘技なら手っ取り早く強くなれる。そして俺を振ったあいつをいつもビビらせることが出来ると、陰険ここに極まれり。原始的にして、考えうる限り最低最悪な暴力の使い方を私はした。それ程まで憎悪は最悪の形で成長していたのである。
しかしその憎悪も次第に昇華されていった。空手の稽古によって。M先生、大魔神、JKのOさん、やる夫、やらない夫、やる太、彼らとの新たな出会いが私の荒みきっていた草根一本もない荒野の世界を、明るく壮大な大草原の世界へと彩りを取り戻させくれた。空手を共に学ぶことによって、彼らの空手に対するひたむきさ、純粋さ、そして優しさが、少しずつ少しずつ私の虫食う憎悪を殴り、蹴ってくれた。
空手を学び、技術を身につけ、大会で結果を残し、あいつへの憎悪を見事に昇華させ、「心技体共に強くなった俺」はふと考える。あいつに降られたからこそ空手に出会え、俺は強くなれた。逆にあいつに振られなければどうなっていたのだろう?軟弱ではあったが、きっと今も楽しい一刻を過ごしていただろう。笑い合いながら。どっちの未来が幸せだったのだろうか?その答えは誰にも、永遠に分からない。
だから「新しい」答えを見つけるために、今も空手の道場に通っている。「あいつに振られたから」という答えではなく、「◯◯◯をするためだったから」という答えに書き換えよう。よし、今から空手の稽古に行こう。心を新たに。憎悪でずっと眉間に深いしわを寄せたままだった私の顔を取り払い、心の底からこう笑おう。この画像のように。
以上~!
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