嗚呼!嗚呼!我ら永遠のグランドファザー!
GWなのに、とある古びたホテルの貸し切りルームに私はいた。
隣には鬼の顔をした実のママン(生理完了、還暦越え、でも女はやめない!)がいた。
ママンだけではなく、親戚も集まり、全員が張り付いたような笑顔しか浮かべていなかった。
グランドファザーの長寿を祝うためである。
グランドファザーは今年で80歳を越し、本家の偉い人に当たる方。
私のような分家には普段はお目にかかれず、
権力的にもお金的にも圧倒的強者。
昔若かった私は反逆し、
「ZZIは静かに生きるべきだ!」
とロック的に中指を突き立てて、ママンにマジ切れされたのは悪い思い出。
グランドファザーと私が邂逅していた時は、落とし玉目当てで正月に「自主的」挨拶に本家へお伺いした時のみ。
私が成人したら「オマエハヨウズミダ!」ばりに付き合いを断っていた。
書いてて我ながらひでぇ。
そんな素晴らしきグランドファザーは数十年前に実の弟に権力戦争で敗れ、本家の跡継ぎにはなれず、敗者として退場するのみだった。
グランドファザーを跡継ぎにとかついでいた人たちはとっくに去り、残ったのは血のつながった子のみ。奥様は鬼籍に入られていたそうだ。
このように昼ドラマのような世界も実存する。
ただ。
私が静かに、しかし激しく怒りを抱いていた。
GW中にやるなよ!!!
である。
2ヶ月前、ママンから、
「GWのこの日は予定は空けなさい。」
「ホワイ?」
「いいから空けろ。」
「オーノー」
「るせぇ、ぶっ○すぞ」
「」
普段は温厚で優しく、イケメン韓国アイドルに貢いでいる以外は、どこにでもいる普通の母親である。
そんなママンが言うのだから、親戚との付き合いでも屈指のハードステージが来たのだと、私は観念した。
ついでにご祝義袋(金参萬円也)の自主的持参を要求された時は、さすがにスマホを握りつぶしたくなった。
10連休GWをぶった切り、我々の金銭事情もぶった切る、そんなグランドファザーの「おじいちゃんこれからも長生きしてね!」会に付き合わされた私は諦めていた。悟っていた。
誰もが望んでいない主役を待っている間、私たちは示し合わせたかのように笑っていた。賑わっていた。人工芝的なアレで。
恐らく全員の心中は形と違えと、
「労害。労害。労害。労害。労害。」
で一致していただろう。
そんな私たちの呪いにも似た呟きを一瞬で消し去った。
もったいつけて登場したグランドファザーはミイラ化していた。
実子に車椅子で押され、やせ細りを通り越して、乾燥化すらしていた。
80歳というリアルな姿を拝見した時、私は悲しくなった。
私が記憶していた、かつての日のグランドファザーはデカかった。
周囲に威張り倒したり、妙にお金にセコかったり、隠し子や愛人の噂があったりしたが、人間としての器がデカかった。
お金に困っていた人を助けたり、仕事をコネで紹介してあげたり、気まぐれで大学の学費をポンと出してくれたりと、
限りなく最悪ではあったが、限りなく人間臭くもあった。
そんなグランドファザーがミイラ化していた。
数日後にはお葬式になってもごく自然な程、生命の終わりを見せていた。
私は心の中では同情という、最悪の侮辱をしつつも、
「グランドファザーおめでとう!」
と拍手をし、自ら盛り上げ役を買って出た。
大げさに駆け声をかけたり、
カラオケで熱唱したり、
BBAどもに体を触られ、
死んだ魚の目をしていた甥っ子を必死で慰めたり、
私は私であることを捨てて、大を生かした。
こうして長寿を祝う会は終了した。
ママンからラインが来た。
たったの一言。
「来年もやりたい!長生きする!」って。余計なことをしやがって。
と。
さぁ、今から飲みに行くぞー。