上段回し蹴りで会社の上司と部下たちを倒してみるその③
(現実世界)
A主任はアキオ君を心配し初めた。やはりアキオ君、疲れているな。さっきから机で微動だにしていないし。ああ、今思えば、アキオ君はプライベートで空手を習っていたんだった。空手稽古の疲労が蓄積されているのかもしれない。私はそれを知らずに、アキオ君にたくさんの仕事をお願いしてしまった。なんてことだ。アキオ君は決して首を横に降らないのをいいことに、私はアキオ君に甘えてしまった。
いや、待てよ。もしかしたらアキオ君、うつ病にかかっている!?いや、うつ病に違いない。アキオ君からにじみ出る無気力感。気だるさ。そうだ。そうでも考えないとアキオ君の今の行動の説明がつかない。うつ病は真面目で責任重く考える人ほどかかりやすい。まさにアキオ君がその典型ではないのか。しかも顔を苦しげに歪めてしまっているし。なんてこった!アキオ君がここまで悪化してるのに、上司として気づけなかったとは!僕の無力感を死ぬほど悔やむ!クソッ!アキオくーん!
A主任は思わず立ち上がり、アキオ君に駆け寄るー。
(脳内世界)
ある会社で突然始まったケンカ。
上司と部下のケンカに、何も知らない会社仲間たちが呆然とする。
私は「しまった。」この顔を必死に隠していた。
想定外だった。
A主任が上司の権力を使って、部下たちをコマにすることは想定していた。
だが、私はその部下ごとボコボコにする気でいた。先程までは。
やられた。
その思いで一杯だった。まんまと一杯食わされた。
私はギリリと奥歯を強く噛み締め、部下たちに守られているA主任を睨んだ。
A主任はニヤリと下卑た笑みを寄こしてくる。クソッタレ。
次に何も知らないであろう部下たちを見据える。
「A主任はボ、ボクが守るんだ!」と言わんばかりの眩しさ。
私は部下たちに基本的に恨みはない。むしろ可愛がっているつもりだ。
当然、部下たちに戦闘能力というか、格闘技経験者はほぼいないだろう。
もしこれが一対一であれば、十秒もあれば正拳突きで瞬殺だろう。
部下の顔を床にこすりつけ、「ヒンヤリして気持ちいい・・・」状態にさせることが出来る。
しかしだ。これが5人相手となったら話は別だ。
正直、2、3人でも私は苦戦するだろう。それが5人も!
ここは読者たちのイメージを分かりやすくさせるため、ドラクエ風に書こう。
もしドラクエをプレイ済みだったら、一人で5ひきを倒す大変さがご理解いただけるだろう。なにせ、1ターンで自分は一回しかこうげき出来ないのに、部下たちは5回もこうげきできるのである。
問題はこれだけではない。
場所だ。ここは会社ビルのとある部屋だ。その場所でケンカが始まった。
当然、私と敵の位置はこうなる。これも絵で説明しよう。
この絵で「あっ」と察し出来たあなたは格闘技のセンスがあると思う。
そう、単純に言って、狭いのである。
机間の通路はギリギリ3人で通れるくらいのスペース。
この狭さが大問題である。
たとえると、トイレの個室。
あなたはこのスペースの中で自由自在に動けるだろうか。
実際に試していただくと分かるが、トイレの個室は基本的に狭い。
そんな狭い場所で、殴る。蹴る。かわす。動き回る。
まず難しい。よほど腕が立つものでもない限り、動きが制限される。
これが大問題。
もし、限られたスペースの中を部下たちがタックルしてきたら?
一ぴき目は倒せても、その瞬間を二ぴき目、三ぴき目が狙い、たちまち私はタックルで倒されるだろう。
後は部下たちにタックルされて動けない私を、残りの部下たちとA主任が囲んでボコボコにする。こうげきもぼうぎょも出来ない私を集中的にこうげきされる。
ああ、なんてこった。
これは最悪の展開だ。そしてA主任はそれを狙っていた!
目の錯覚か、A主任がクトゥルフ化しているが、気にしないことにした。
A主任は狼狽する私を見て、
「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん!」
と何やら声らしきものを叫ぶ。
私はとっさにこれが部下たちへの指示なのだと直感した!
と同時に部下たちが動く。私をタックルし、私の動きを封じ込めようと。
5ぴきが同時に私に向かってくる。
この恐怖は実際に経験した者でないと、理解はいまいち得られないだろう。
この圧倒的物量。圧倒的理不尽。圧倒的破壊。
この巨大なものに対し、私がとった方法は。
電光石火の先制攻撃を、一番私に近寄ってきた部下Aに見舞った!
わずか0.5秒。
部下Aは声を上げることもなく、静かに床に倒れる。
驚愕の顔を浮かべるA主任。何が起きたのか理解できない部下たち。
驚きに目を丸くするOLさんたち。そして「分かってる」顔をするOL。
私は軽く息を吐く。よし、まずは一ひき目か。
私は残る部下たち、A主任に矢を射る視線を放ち、「一瞬の間」の如くの攻撃を続けて仕掛けたー。
さて、ここで問題です。
アキオはどうやって部下一ひき目を瞬時に倒したのか。
なお、ドラクエにありがちな技や魔法でもない。道具も使っていない。
きちんと現実世界に基づいた設定だ。地球の重力に則ってる。
読者たち、よかったら想像してみてほしい。
私は読者たちの期待を裏切らない!多分・・・。
以上~!次回に続く!
文字数2123文字
所要時間1時間47分