少年クンが訓練校に来て「しまう」理由が分かった、そんな私のGWの入り。
今年もGWに入った。GWを堪能する方もいれば、GWを呪う方もいる。私は今年のGWをずっともやもや、もやり過ごすだろう。
私に吐き出させてほしい。
私は今月にして「この訓練校は救いようがない。ハッピーエンドなんてない。確実に約束されたといえば、11ヶ月後の卒業=多数の無職者だろう。」と見限っていた。
そんな私をちょっと殴りたい。顔面せいけんづきを決めたい。
それは私の事情、私の都合であって、生徒全員がそういうわけではないと。
私が通っているビジネスパソコン基礎科で、共に学ぶ学友(平均40歳以上)たちで、私は諦めて「次回コンティニュー」モードに入っていたが、そんな私のモードを彼は変えさせてくれた。
そんな彼は科内で最年少の21歳。今時のさっぱりさわやか無臭ボーイズ。
私は最初、
「なんでこの学校へ?」
といった恐怖心しかなかった。
少年クンを警戒して、あまり彼を視野に入れないようにスルーを決め込んでいた。
ある日。
「アキトさん、ちょっといいですか。」
「うん、何?(内ポケットの合鍵を強く握り締めつつ)」
「ぱそこんはどこで買えばいいんですかね?」
「?普通にショップで買えばいいじゃないの?」
「いやー、どこのお店も高くて。なるべく安いのはないっすかね?」
「機能にもよるけど、基本的には新しい方がいいよ(新しいのをすすめるのは万国共通)」
「そうなんスか。いやー、困りましたねー。」
「先生に相談でもしたら?」
「あの先生は信用できないんで。それに。」
「それに?」
「俺、ぱそこんの買い方が分からないんスよね。」
「はぁ?」
「俺学校いってないんで。あ、さんすうとよみかきはできますよ!」
そこからはへヴィな内容だった。
少年クンは小学生時代から親に育児放棄されて、まともに学校に通わせてもらえず、中学校卒業をもって就職、夜の世界に飛び込んだそうだ。
そこで彼は人間の本性を何度も見てきて、うんざりし切った彼は足を洗い、まともな世界で生きたいと決め、この訓練校に通うことにしたそうだ。
たとえ自分に学がなくても、ぱそこんでワードやエクセルを始めとした、事務職系の様々なスキルを身につければ、ワンチャンあると思っているそうだ。
あくまでも少年クンの自分語りによる「そうだ。」でしかない。
でも私は「あ」と生声をあげた。
この生徒もごくまれに存在するからこそ、訓練校の存在意義、意味もまたあるのだと。
私は少年クンを応援し、少しでも彼の力になれればと決めた。
ひとまずは、ぱそこんを買う前に学校のPCで慣れてからにした方がいいとアドバイスした。
どうしてPCがあり、どんなソフトがあり、どうやって使うのかを、少年クンに分かりやすく、かつ深く教えて聞かせた。
少年クンは最初、
「分かんねっス。」
を連発していた。
しかし水がたちまち染み込む布のように、新しい知識をどんどん吸収していった。
マウスの移動とクリックを覚えた次の日には、応用をきかせて自力でドラッグとドロップを覚え、また次々の日には新しいのを覚える。
教える私側も妙に楽しくなり始め、まだ訓練校に通ってもいいかなと思っていた。
少年クンはキーボードの操作方法がよく分からず、まだ指全体を使ってのタッチが出来ないため、キーボードの行一本の「あsdfghjkl」しか覚えられず、かなり焦っていた。
私はこのもどかしさ感を隠して、
「これは慣れるしかないよ。誰でも初めてはあるし。時間をかけて家でゆっくり覚えていけばいいから。」
「ういっス。スマホの操作みてーに慣れればいいんスよね。」
「そうそう。」
「ういっス!」
こうして少年クンは学校のキーボードを無断で家に持ち帰った。
こんなケースは学校側も初めてで混乱し、
普通は一発退校処分のところを、職員会議で揉めに揉め、
とりあえず少年クンの処分はGW明けに持ち込まれることになった。
こんなGWの入り方は無駄生きしている私の人生でも初めてだ。